打つより打たれる事の大切さ

保守的・消極的という表現は日本人の特徴として根付くものであり、それがあっての日本人とも言える。これは決して悪いイメージだけではなく、今でもこのような心は日本人としての根源や誇りとして大切に扱われているもの。例えばそれは"義理"であったり"周囲との調和"であったり、自己犠牲を払うことによって認められる『二歩下がってから三歩進める』的な意味での表現だ。そんな日本人らしさも今を生きるうえで転換期をむかえている。
今、ビジネスの世界で見る社会は"情報"や"知識"の社会と言える。IT企業が続々と頭角を現してきたのなんてその象徴である。工場で物を黙々と作るような、上から言われたとおりに物を正確に作っていれば生きていけるような"周囲との調和"に長けた人員を欲していていた昔とは全く違ってきている。また、上司の考え通りにそのまま忠実な仕事としてこなす、期待された最低限の結果を残せる人員が重宝されていた時代とも違う。日本を含む世界は今、上司から学んだ事に色をつけて結果を出せる、またはそのような期待を持てる、そして極端に言えば"周囲との調和"という殻を破れる人員を必要としている。
韓国では各部門ごとに独立清算制度を採る企業が増えているらしい。簡単に言えば日本の部長や課長クラスがスケールの小さい社長として一本のラインを請け負っているという考えだ。これは"会社人間"という言葉を感じさせずに働く意欲を増進し、同じ会社の部門間でも"調和"ではなく"競争"という意識に変わる。独立清算制度、競争意識、これは働く意欲が無い者を排除する為の最も有効な考え方ではないだろうか。部門ごとの競争からチームの競争へ、そこから個人の競争へと変わっていく。こういった所に韓国の競争概念の強さがあると思われる。
日本と韓国の違いは何か。それは保守的・消極的に対して革新的・積極的という真逆の観念にある。日本も今でこそ"格差"が表すように革新や積極性を持った人間が勝ち組として競争世界を勝ちあがっているが、大きく見ればまだまだ昭和的価値観を持つ人間の方が強いと思われる。
政治に例えると分かり易いかも知れない。決定的なスキャンダルが出て失脚する政治家はともかく、良い位置にいる大物はいつまでもそのような場所に居座れる、若い政治家はその大物が楽して居座る事のできる理不尽さに噛み付こうともしない。これは"周囲との調和"を重んじた義理堅く忠実な者が勝ち上がれるというシステムがあるからこそ。昭和のビジネスの象徴である年功序列制度が深く根付いている事を意味している。これは、革新・積極性を掲げて仕事に意欲を燃やす個人に対して強いられる社会的な圧力が極めて強いという事だ。問題視されている"いじめ"なんかもこのような背景があっての事なのかもしれない。
こんなことわざがある。
【出る杭は打たれる】
会社・学校という団体において、何か人とは違った行動をとる人を"出る杭"とする。今までの経験から言ってみなさんはこの"出る杭"をどういう目で見てきただろうか。恥ずかしながら私は悪い意味での日本人らしい行動、"出る杭を打つ側"として生きてきた。良い意味での目立つ行動をする人を見て何か面白くない感情を持ち、周りの同じ考えを持つ仲間と一緒になってその杭を打つような真似をしてきた、"周囲の調和"を乱さない為に、仲間への見当違いな"義理"を果たす為に…。そして、その行為によって守られる自分の立場というものがあるという事も経験している。上に書いた"社会的な圧力"のいい例だと思う。これでは今の時代が形成する格差ピラミッドの底辺にいてもおかしくないと今頃になって気付いた。
現在の日本が必要とする人とは"出る杭"と言われる人だ。冒頭にも書いたように"周囲との調和"を乱す人のことである。時代はもう「なぁなぁ」で仲間を集め固まっている人達が強い時代ではないのだ。今の日本がまだ"出る杭"は打たれてしまう世の中であるなら"出過ぎた杭"になってしまえばいい。保守的、消極的な人達はその"出すぎた杭"を打てるほどの革新性や積極性は持ち合わせてはいないのだから。このような少数精鋭が今の格差ピラミッドの頂点に立っている。
韓国は今、日本より格差の大きい社会となっている。今の韓国が日本の未来だと言っても過言では無いらしい。確かに格差という話ならば今の日本は教育にまでも格差が存在し、その教育格差世代が大人になれば今よりも大きな社会の格差を形成するものと思われる。革新的・積極的な事が勝ち上がる術だという事も後々には多くの国民に広がり、"出る杭"を打ってきた人達が"出過ぎた杭"にコテンパンに打ちのめされる日というのも訪れるはず。そのような"知識"や"情報"の競争社会においての未来の姿が韓国なのだ。
しかし、私は未来における日本の姿を韓国以上のものとして見たい。日本というか私の未来の姿というべきか。
保守的・消極的の意味する日本人特有の"義理"や"周囲との調和"などの自己犠牲を払う事によって認められるべき風習を大切にしながら、革新的・積極的な競争感覚を磨けたらなぁと思うのだ。『二歩下がってから三歩進める』事と『物怖じせずに三歩進める』事の共有…矛盾していると言われるかもしれないが、これが出来てこそ日本人として胸を張って生きていけるのではないだろうか。

と、"出る杭"にもなれていない私が話しても全く説得力が無いのも事実。"知識"や"情報"という地盤を強固に固め、出る方向をきちんと見定めた上での"突出した杭"を目指してこれからも精進したいと思う。"打つ側"から"打たれる側"へ変わる、これが私の仕事に関する当面の目標になる。

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