裸の王様

グッドウィルグループの事業停止がほぼ確実となったようだ。介護事業に続き、TVドラマにもなるほど世間から認知された本業の派遣業までもが停止命令。停止期間は約２〜４ヶ月とそれぞれの事業所によって異なるようだが、この空白は予想以上に大きいと考えられる。グッドウィルグループの経営の行く末は知ったこっちゃ無いが、日雇い派遣に登録して生計を立てている人はいい迷惑、その派遣を雇用している企業も迷惑。昨日書いた"責任"を誤魔化そうと企む事が、大きな波乱を生むという事実が早々と実証されようとしている。

『裸の王様』という話をご存知だろうか。

新しい服の大好きな王様がいるという事で、二人の詐欺師が「愚かなものや自分にふさわしくない職をしている者には見えない布」で服を作れると触れ込んでくる。
王様は大喜びで服を注文するが、二人の詐欺師が持ってきたのは実際には存在しないもの。
しかし、布の見えない条件から王様、家来、そして市民までもが見栄をはってその服を見えているかのように振舞う毎日。
そしてある日、王様のパレードで子供が叫んだ。
「王様は裸だよ！」

今の世の中、多くの人が王様であり、家来であり、市民となっているのではないだろうか。
間違った情報や考え方でも、その分野のトップが「こうだ」と言ってしまえば、上流下流の階級に関わらず皆がそれを時代の考え方と信じ込み、その考えを持つ事で「自分は立派に今の社会の一員なんだ」と言わんばかりに胸を張り、もっともらしい意見として次から次へと自慢げに広げているのが現状だと思う。大きな企業というだけでその方針が正しい時代の風潮だと信じてしまい、たとえおかしいと思っても、個人が大きな社会に対して異議を唱えるのは難しく、その小さな力は見栄張り信者達によってことごとく潰されてしまう・・・こんな時代の背景があるように思える。
グッドウィルに限らず、最近の企業の不祥事はまさにこのような背景のもとに起こったのではないか。経営側の無謀でモラルを度外視した経営方針でも、準拠する雇用者にそれが正しい事と徹底認識させる事で、顧客までもその間違った方針を正しい事と認識させていったのだと思う。
それはやがて真実に気付いた被害者に、「違うよ！それは単なる利己主義だよ！」と発言される事で皆が我に返り、問題として表面化していった・・・
結局、"裸の王様はやはり何も着ていなかった"という事だ。

私の借金も『裸の王様』状態だった。詐欺師は"ギャンブル"、王様は"欲深い私"、家来や市民は"見栄っ張りな私"である。

「簡単に大金が手に入りますよ」という触れ込みに、お金が大好きだった私はその情報を真に受けギャンブルにはまっていった。実際はギャンブルとは胴元が必ず儲けるようにできているもの…勝つ時があれば負ける時もあり、最終的にはマイナス収支が筋。
欲深い私は必ず大金を手にできるかのように投資し、それに優越感さえ感じていた。実際はどんどんマイナスになっていく自分の資産に気付きながらも、これが今の時代に勝ち組になれる方法なんだ、と。
たまに我に返る時もあったが、そこは見栄っ張りな私が欲深い私を後押しする事となった。マイナスのままでは引き下がれない・自分の今の生き方に賭けてみよう・今やめたら今までの私が無駄になる・・・"欲深い私"の生き方が絶対なんだ！と、"間違い"を無理やり肯定するようになっていた。
そしてある時、その空虚な自分にむけて、切羽詰った"危機感を持った私"が登場し一声。
「そろそろ現実を見たら？」

私の間違った考え方は、この一言で消滅した。『寸鉄人を殺す』とはこういう事を言うのだと思う。
どんな高名な持論も的を得た本質というべき短い言葉であれば、急所一突きで制することができる。時代に流され自分をしっかり持たずにいると、その急所がなかなか見えてこない・・・いや、見ようとしなくなるのだと思う。

私は今、存在しなかった服を脱ぎ捨て、新しい服を着ようとしている。それは今ある自分に対する理想が現実となった時、初めて袖を通した事になるんだ。
理想が理想で終わるのではなく、着実に現実となっていくよう心掛けたい。
もう二度と『裸の王様』にならない為に。

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